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2026.01.14

天井クレーンの定期自主検査について

天井クレーンの定期自主検査について

工場の天井を見上げれば、そこには数トン、時には数十トンの鉄塊(天井クレーン)が走っています。私は30年間、多くの工場建設や設備管理に携わってきましたが、クレーン事故ほど現場が凍りつく瞬間はありません。ワイヤーが切れ、吊り荷が落下する。あるいはブレーキが効かず、暴走して壁に激突する。これらは決して映画の中の話ではなく、点検を怠った現場で実際に起きている現実です。

「天井クレーン 検査」と検索されたあなたは、おそらく工場の安全管理者様か、あるいは新たに点検担当になられた方でしょう。

天井クレーンは、労働安全衛生法(クレーン等安全規則)によって厳格な検査が義務付けられています。「法律だからやる」のは当然ですが、何より「現場の仲間の命を守る」ために、検査の仕組みを正しく理解する必要があります。

本記事では、複雑になりがちな**「性能検査」「定期自主検査(年次・月次)」の違い**から、プロが現場で実際に見ているチェックポイントまで、実務に即して解説します。

1. そもそも何が必要? クレーン検査の全体像(3トン以上と未満の違い)

まず、お使いのクレーンの「つり上げ荷重」を確認してください。ここが法律の分かれ目です。

つり上げ荷重3トン以上のクレーン

最も規制が厳しいクラスです。以下の3つの検査がすべて義務となります。

  1. 性能検査(2年に1回): 登録性能検査機関(ボイラ・クレーン協会など)による検査。
  2. 年次定期自主検査(1年に1回): 全体的な精密検査。
  3. 月次定期自主検査(1月に1回): 動作や摩耗の確認。

つり上げ荷重0.5トン以上〜3トン未満のクレーン

「クレーン設置届」は不要ですが、「年次定期自主検査」と「月次定期自主検査」は同様に義務です。性能検査はありません。

※0.5トン未満のクレーンであっても、安全配慮義務の観点から同様の点検を行うのが現場の常識です。

2. 車検と同じ! 絶対に避けて通れない「性能検査」

つり上げ荷重3トン以上のクレーンをお持ちの場合、最も重要なのがこの「性能検査」です。これは自動車で言うところの「車検」にあたります。

  • 実施者: 厚生労働大臣の登録を受けた「登録性能検査機関」の検査員。
  • 頻度: 原則として2年に1回(クレーン検査証の有効期間更新時)。
  • 内容: 荷重試験(定格荷重の1.25倍の荷を吊る)や、構造部分の摩耗、亀裂、電気系統の絶縁抵抗などを厳密にチェックします。

【プロの助言】 この検査に合格しないと「クレーン検査証」が更新されず、そのクレーンは使用禁止となります。有効期限切れの状態で使用すると、労働安全衛生法違反(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)となり、企業としての信用は地に落ちます。期限の2ヶ月前から受験可能なので、早めの予約が鉄則です。

3. 「定期自主検査」とは? 年次と月次の違い

「性能検査」が公的な車検なら、「定期自主検査」はユーザー自身(または委託業者)が行う定期メンテナンスです。「自主」という言葉に惑わされてはいけません。**「任意」ではなく「義務」**です。

① 年次定期自主検査(1年以内ごとに1回)

人間ドックのような精密検査です。

  • 内容: 荷重試験(定格荷重相当)、構造部分の強度、ボルトの緩み、電気系統の異常などを詳細に点検します。
  • 記録: 結果を記録し、3年間保存する義務があります。
  • 資格: 法的には「十分な知識と経験を有する者」であれば社内の人間でも可能ですが、荷重試験用のウェイト(重り)が必要なため、現実的には専門業者(クレーンメンテナンス会社)に外注するのが一般的です。

② 月次定期自主検査(1月以内ごとに1回)

日常的な健康診断です。

  • 内容:
    • 過巻防止装置、ブレーキ、クラッチ、コントローラーの機能確認。
    • ワイヤーロープおよびつりチェーンの損傷確認。
    • フック(つり具)の損傷確認。
    • 配線、集電装置、配電盤、開閉器の異常確認。
  • 記録: こちらも記録し、3年間保存が必要です。

③ 作業開始前点検(毎日)

その日クレーンを使う前に、操作担当者が行う点検です。

  • ブレーキの効き具合。
  • ワイヤーロープの乱れ。
  • 異音や異臭がないか。 これらを「指差呼称」で確認してからスイッチを入れる習慣をつけさせましょう。

4. 施工管理30年のプロはここを見る! 現場検査の「急所」

法令通りの項目をチェックするのは当然ですが、長年現場にいると「故障の前兆」が見えてきます。私が現場巡回時、特に目を光らせているポイントを3つ紹介します。

急所①:ワイヤーロープの「キンク」と「油切れ」

ワイヤーロープは命綱です。素線切れ(針金が切れている状態)は誰でも分かりますが、怖いのは「キンク(よじれ)」と「型崩れ」です。 ロープが変形していると、そこに応力が集中し、ある日突然破断します。また、赤錆が出ているワイヤーは論外です。グリス(ロープ脂)が切れている証拠であり、内部腐食が進んでいる可能性が高いです。

急所②:フックの「口の開き」

吊り荷を掛けるフック。長年重いものを吊り続けていると、金属疲労で少しずつ口が開いてきます。 ノギスで定期的に寸法を測ってください。新品時より開いている場合、あるいは摩耗して細くなっている場合は、即交換です。「まだ引っかかるから大丈夫」は事故の元です。

急所③:走行時の「異音」と「レールの削れ」

クレーンを走らせた時、「キーキー」「ガリガリ」という音がしませんか? これは車輪(フランジ)とレールが干渉している音です。クレーン本体が斜行(スパンが狂っている)している可能性があります。放置すると車輪が脱線したり、レールごと落下する大事故に繋がります。レールの側面に金属の粉(削りカス)が溜まっていたら要注意です。

5. 自社でやるか、外注するか? コストと安全の天秤

「月次点検は社内でやっているが、年次点検はどうすべきか?」という相談をよく受けます。

私の結論は、**「年次点検はプロ(クレーンメンテナンス業者)に任せるべき」**です。

理由は3つあります。

  1. 荷重試験の壁: 自社で定格荷重分のウェイト(重り)を用意し、安全に試験を行うのは非常に困難で危険です。
  2. 隠れた不具合の発見: ギアボックス内部の歯車の摩耗や、目に見えない電気回路の劣化は、専門家の目と測定器でないと見抜けません。
  3. 責任の所在: 万が一事故が起きた際、「専門業者による点検を経ていたか」は、企業責任を問われる場面で大きな意味を持ちます。

費用はかかりますが、クレーン事故が起きた時の損害賠償額や操業停止ロスに比べれば、微々たる保険料と言えます。

まとめ:記録簿は現場のカルテ。ただの紙切れにするな

天井クレーンの検査は、単なる法令遵守の儀式ではありません。 検査記録簿(チェックシート)は、そのクレーンの「カルテ」です。「先月よりブレーキの遊びが増えたな」「ワイヤーの摩耗が少し進んだな」と、経年変化を読み取るための重要なデータです。

  • 3トン以上なら「性能検査(2年)」と「年次・月次点検」が必須。
  • 3トン未満でも「年次・月次点検」は必須。
  • 年次点検はプロに依頼し、安全を買う。
  • 毎日の作業前点検で「いつもと違う音・動き」を感じ取る。

もし、今の現場で「検査記録簿がどこにあるか分からない」「最後の点検がいつか不明」という状態であれば、今すぐメンテナンス業者に連絡し、スポット点検を依頼してください。